(1)空から降ってきた雪が,建物の屋根に積もって,
建物が雪の重さに耐えきれず損壊した場合は,自然という不可抗力ですので,
建物の所有者は,だれにも損害賠償を請求することはできません。
*火災保険の契約内容によっては,雪害による建物損壊について保険金を請求できることがあります。
(2)しかし,
建物が雪の重さに耐えきれず損壊した場合で,損壊にともなう破片などが,通行人,近隣の建物,駐車されていた自動車などに損害を与えたときや,
建物に積もった雪が落ちて,通行人,近隣の建物や駐車されていた自動車などに損害を与えたときは,
建物の占有者や所有者に,民法715条の土地工作物責任の問題が生じます。
*車両保険の契約内容によっては,落雪による自動車の損害について保険金を請求できる場合があります。
*建物所有者が加入する保険内容によっては,落雪による損害賠償請求に対応できる場合があるかもしれません。
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土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2
前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3
前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
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損害額ですが,
落雪時の時価が基準となります。
修理費の方が時価より安い場合は,修理費相当額となります。
よって,新品を買ったとしても,
新品の値段の全額が損害額になるわけではありません。
なお,被害者に落ち度(過失)があった場合は,
過失相殺により,過失割合に応じて損害額は減額されます。
たとえば自動車が落雪により壊れてしまった場合ですが,
◇修理費など
①全損の場合(=修理が不能な場合や修理費が事故時の時価を上回る場合)は,
事故時の時価が損害額になります。
②一部損傷の場合は,
必要かつ相当な範囲の修理費が損害額になります。
◇評価損(格落ち)
修理をしてもなお機能に欠陥が生じ,または,事故歴により価値の下落が見込まれる場合,その減少分は損害額となります。
◇代車使用料
修理または買換えのため代車を使用する必要性があり,実際に代車を使用した場合で,相当な修理期間または買換え期間については,相当額を基準として,代車使用料は損害額となります。
◇雑費など
保管料,レッカー代,廃車料などについて,相当の範囲で損害額となります。
◇慰謝料
原則として慰謝料は認められません。
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(3)所有者に対して土地工作物責任を追及する場合の要件事実
<請求原因>
①原告の権利または法律上保護される利益の存在
②土地工作物の設置または保存の瑕疵の存在(土地工作物が通常備えているべき安全性が欠如していたこと)
③②による①の侵害
④損害の発生及び額
⑤③と④との因果関係
⑥③のとき被告が②の土地工作物を所有していたこと
<占有者の抗弁>
占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと
<所有者の抗弁>
1所有者以外の者が土地工作物を占有していること
2通常予想される以上の天災
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(4)民法717条の土地工作物責任は,
占有者については,民法709条の過失よりも厳しい責任とされており,
所有者については,(占有者がいる場合は2次的責任となります),無過失責任とされています。
(5)学説には,瑕疵と一定程度の自然力とが競合した場合で,通常予想される以上の天災のときは,土地工作物責任は軽減されるという見解,さらに極めて異常な自然力による場合は,土地工作物責任が免責されるという見解があります。
下級審判例には,想定外の自然力を理由に,占有者や所有者の損害賠償額を減額したものがあります。
(6)土地工作物とは
判例(大判昭3・6・7民集7・443)によると,「土地に接着して人工的作業をなしたるによりて成立せる物」とされています。判例は,土地工作物の範囲を拡大して本条の責任を広く認めて,被害者を救済しようとする傾向にあります。
(7)設置・管理の暇庇とは
国家賠償法2条1項の判例(最大判昭和56・12・16民集35巻10号1369頁)ですが,
「営造物が通常有すべき安全性を欠き,他人に危害を及呼す危険性のある状態」のことをいいます。
(8)瑕疵の存否とは
国家賠償法2条1項の判例(最判昭和53・7・4民集32巻5号809頁)ですが,
暇庇の存否は,「当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき」とされています。
(9)自然現象と土地工作物に関する下級審判例には,
屋根からの落雪による死亡事例(北海道)で土地工作物責任を肯定したもの,
地震に関する事例で土地工作物責任を肯定したもの,
台風に関する事例で土地工作物責任を肯定したもの,
集中豪雨に関する事例で土地工作物責任を肯定したもの
などがあります。
(10)占有者の責任
被害者が土地工作物の占有者であった場合は,「他人」性が否定される結果,占有者として損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとして免責される場合でなければ,所有者に対して損害賠償請求をすることができません。
なお,占有者の免責は容易には認められない傾向です(ただし,占有者が賃借人の場合は,民法400条の善管注意義務との関係性から,善管注意義務を尽くしていれば免責されるとの学説もあるようです)。
直接占有者(賃借人)と間接占有者(賃貸人)がいる場合ですが,まず直接占有者が責任を負い,直接占有者が免責された場合に,間接占有者の責任問題となります。
したがって,戸建ての建物の賃借人(=占有者)の場合ですが,
被害者が第三者のときは,落雪による損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときでなければ,免責されませんし,
被害者が賃借人自身のときは,落雪による損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときでなければ,間接占有者でもあり所有者でもある賃貸人に損害賠償を請求することはできませんし,
(11)証拠の収集
所有者(=賃貸人)は平成26年2月の大雪は天災だから,損害を賠償しないとの態度を取る可能性が高いと考えられます。
落雪の被害者が損害賠償を請求するためには,まず証拠を確保することです。
雪が解けてからでは,落雪時の状態がわからなくなりますし,その被害は,落雪後の被害であるとの反論を受ける可能性があります。
別の場所で,落雪にあったと反論される可能性もあります。
つぎに,早期に加害建物の所有者・占有者・管理者に対して,落雪により被害を受けたと申告しておくことです(ストレートに損害賠償請求をしてもかまいませんが,交渉ごとですので,あまり強い口調ですと,話合いが決裂し,裁判しか選択肢がなくなることになります。)
あとから落雪被害の申告があった場合は,所有者は何でいまごろと疑念を抱くからです。
(14)建物の落雪により駐車場の自動車が被害を受けた場合
私見としては,
自動車の積雪荷重が耐えられないほどの,未曾有の降雪量であった場合(仮に積雪量が10メートル?)には,異常な災害として,無過失責任を負う所有者であっても免責されると思います。
屋根からの落雪があろうがなかろうが,野外の駐車場に止めておれば,空から降ってくる雪の重みで,結果として自動車が破損していたというような場合は,所有者に損害を負担させることは疑問を感じるからです(契約駐車場なので,そこに駐車しておくしかなかったとしても,実際は困難かも知れませんが,自動車の所有者には自動車を移動させるなどの選択肢を理論上はとることができたからです。)。
しかし,今年の2月の関東・甲信地方の積雪の場合ですが,野外の自動車に直接に降り積もった雪の重みで自動車が破損したということは,ほとんどなかったと思います。落雪につき,建物に瑕疵がなかったというのであれば,そもそも土地工作物責任は生じませんが,毎年降雪がある地域ですので,瑕疵がなかったとはいえないでしょう。よって,無過失責任を負う所有者は免責されないと思います。
ただし,過失相殺が適用されて,損害額は減額されることが多いのではないでしょうか(損害と原因との関係=因果関係が明白ではないということで,減額なる場合もあるでしょう)。実際は困難だったかも知れませんが,自動車の所有者には自動車を移動させるなどの危険回避措置をとることができたことを考慮すると,被害者側には過失があったとして,過失割合については何ともいえませんが(ケースバイケース),過失相殺により,損害賠償額は減額されることになると思います。あらかじめ気象庁が予報していたかどうかとか,その地域における積雪の異常性も考慮要素になるでしょう。
*とくに,建物の賃借人が,建物付属の駐車場も借りており,その建物の落雪よって損害を被ったときは,所有者である賃貸人は賃料を得ているので,損害賠償責任が軽減されにくいのではないかと考えます(賃貸人は,賃貸借契約に基づく責任も負っています。)。建物の賃借人は自分の借りている部屋については占有者となりますが,建物の屋根については占有しているとはいえないので,「他人性」は否定されないでしょう。
ただし,落雪場所における,落雪する前や落雪した時の状況については,現場に住んでいない所有者である賃貸人よりも,現場に住んでいる賃借人の方が具体的に把握しているでしょうから,賃借人の過失は認定されやすいでしょう。
(13)落雪の防止対策
気象異常により,今年以降において,冬には日常的に雪が降ることになったり,年に数回は大雪となったりする,というように気象条件が変わってしまった地域については,
今年は異常気象ということで,落雪による損害賠償責任が免責されたとしても,来年以降においては,落雪の防止対策をしていなければ,免責が認められない方向に傾いていくことになります。
落雪の危険を予見することができるようになっていくからです。
(14)民法717条第2項
雪の重みに耐えきれず,竹木が倒れて被害が生じた場合や,
竹木の栽植又は支持に瑕疵により落雪が生じて被害が生じた場合も,
土地工作物責任と同様に,占有者や所有者は損害賠償責任を負うことになります。
雪が降らなくても,老齢や病気で竹木が倒れそうであったような場合は,占有者や所有者は免責されないと思います。竹木が,となりの土地上にせり出していた場合も免責は難しいと思います。
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