(1)賃借人(借主)が原状回復費用を支払ったにもかかわらず,
賃貸人(貸主)が修理(リフォーム)をしないで,次の賃借人に賃貸する場合があります。
いっけん,賃貸人が修理費用に充てずに,原状回復費用を自分のふところにいれたのだから,賃借人は原状回復回復費用を返せと主張できるようにも思えます。
しかし,そのような主張はできません。
(2)ところで,賃借人の原状回復費用の負担範囲についてですが,
賃借人が原状回復費用を負担する範囲は,賃借人が故意(わざと)または過失(不注意)による行為によって,賃貸物件を傷つけた部分に限ります。
したがって,賃借人は原状回復費用として,通常損耗部分や自然損耗部分については負担する必要がありません。
(3)原状回復費用というのは,退去時において,本来ならば,賃借人の故意または過失による行為がなければ,賃貸物件に傷がつかなかったはずである部分に対する損害賠償ということになります。
つまり,原状回復費用の支払いの有無を問わず,損害は賃貸物件に傷がついた時点で,すでに発生していることになります。
(4)賃借人が賃貸人に対して,原状回復費用を支払ったにもかかわらず,賃貸人が修理しなかったとしても,賃借人の故意または過失による行為によって,すでに損害が生じているといえますので,賃貸人の不当利得にはなりません。
よって,賃借人は賃貸人に対して,修理をしていないのだから原状回復費用を返せとはいえません。
(5)原状回復費用の要件事実について,
①「岡口基一 要件事実マニュアル (ぎょうせい)」を参照したところ,
第2版下巻には,「賃貸人が当該損耗・汚損した部分の修繕・交換ための費用を支出したこと」
と記載されており,支出したこと,つまり実際に賃貸人が修理したことを前提としていたようですが,
最新版となる第4版第2巻では,「当該損耗・汚損した部分の修繕・交換に要する(又は賃貸人が支払った)費用の額
に変更されており,実際に賃貸人が修理する必要はなく,原状回復費用の損害額を立証できれば足りる記載になっていました。
②「廣谷章雄 編 借地借家訴訟の実務(新日本法規)」を参照したところ,
「原状回復費用の損害額」
と記載されており,実際に賃貸人が修理する必要はなく,原状回復費用の見積もりの金額でもよいことを前提としています。
(6)注意すべきは,賃借人が故意または過失によって,賃貸物件を傷つけた部分があったとしても,賃貸借契約の長期継続により,通常損耗部分や自然損耗部分との相関関係で,故意または過失による傷があろうがなかろうが,製造から長期間の経過により,傷ついた部分の経済的価値が0円ということになれば,原状回復費用を支払う必要がなくなる場合があるということです。
(7)なお,民法422条の損害賠償による代位は,目的である物又は権利の価額の全部の支払いがあった場合の規定ですから,賃借人の支払った原状回復費用が目的である物の価額の一部にすぎない場合は,目的である物の所有権は賃借人に移転しませんし,価額の全部を支払った場合でも民法242条の不動産の付合の規定により,所有権は賃借人に移転しないことが多いでしょう。
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