平成24年4月23日 注意勧告(月報司法書士2012年8月号120頁)
司法書士Aが,売主(所有者)と一度も面談することなく売買に基づく所有権移転登記を代理申請した事例
(概略)
売主Bは,平成19年には寝たきり状態で病院に入院しており,主治医からは後見程度の診断書が出されている。
平成23年,司法書士Aは買主Cから,土地建物の売買に基づく所有権移転登記の代理申請の依頼を受けた。
司法書士Aは買主Cから,売主Bは意思確認がうまくできない可能性が高いことを聞いた。
司法書士Aは売主Bの長男Dから,売主Bが租税公課の滞納処分を受けそうだとか,任意売却の話しもでているとか言われて,懇願された。
司法書士Aは,売主Bの推定相続人全員である長男D,次男E,三男Fの実印を押印した承諾書(印鑑証明書添付)を取得すれば,問題は生じないと考えた。
司法書士Aは,売主Bに対し,一度も面談することも連絡をとることもなく(つまり,売主の売買契約締結の意思確認,売主の本人確認,売主の代理人に対する代理権授与確認をまったくしていないことになる),
土地建物の売買に基づく所有権移転登記の代理申請をおこない,登記は完了した。
平成23年,司法書士Aは,G(たぶん,土地建物の利害関係人)から懲戒処分の申立てを受けた。
平成24年,司法書士Aは注意勧告処分を受けた。
*本件では,司法書士Aは売主Bに直接面談をし,売主Bの判断能力に問題があれば,成年後見制度を利用して売買契約を締結し,所有権移転登記を代理申請すべきでした。
相続が発生したときに,推定相続人は相続人になれるのであって,被相続人が生きている間は,推定相続人には被相続人の相続財産に対する権利はありません。
よって,本件売買契約は,無権代理人による売買ですので無効になります。
成年後見制度を利用するには,家庭裁判所への申立てが必要で,時間がかかることもあり,この司法書士Aのような脱法行為のうわさは見聞することがあります。
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